武漢ウイルス患者の病理解剖(1)

新型コロナウイルス患者の病理解剖の難しさ

総ての医学部、主な医療機関には死亡者の病理解剖を行う部門が存在します。
信州大学医学部病理学教室の研究生であった昔、喜んで病理解剖の副手として解剖現場に参加したものです。
恩師である病理学教室の教授が肺がんで亡くなった時にも、脳摘出の大役を頂きました。
おおよそ、100体の剖検の貴重な経験を信州大学医学部でさせていただきました。

病気の執着としての死は、当時の新薬開発に従事していたものにとっては、解剖によって多くの知識を与えてくれました。
当然、主治医も病理解剖に立ち会い、治療の正当性や病気の進展、治療効果などを総括される現場の医師にとってもかけがえのない機会となっています。

40年前,解剖は病理学第1と第2教室が、ご遺体毎に交互に行ったものです。
亡くなった後、できるだけ早急に解剖することが望まれ、解剖後ご遺体は自宅に帰れるからです。
ですから、夜間の連絡係が宿直し、担当の医師から連絡があり次第病理解剖担当の病理医に連絡する体制がとられていました。
通常年間解剖数は病院のベッド数が普通であり、信州大学の場合年間400体が病理解剖の対象でした。

1985年だったと思いますが、松本で日本で初めてのAIDS感染者が出ました。
フィリピン女性で亡くなることなく、母国に帰りました。

当時、AIDS患者が亡くなった場合の解剖手順が真剣に話し合われ、1例目の解剖は教授が行うことも取り決められていました。
結核やB,C型肝炎など細菌、ウイルス感染性疾患で亡くなる方は多く、病理解剖医は感染防御に気を付けなければならず真剣そのものでした。

臨床医でない小生は患者の病歴には興味はありますが、臨床経緯については理解に乏しく、生物の最後の姿から理解する病変そのものに興味があります。
現在でもそうであり、臓器組織の病巣、病変から情報によって病気について考えるものです。

現在世界的流行の武漢ウイルス感染についても、肺病変、心臓の変化に注目します。
武漢ウイルス感染によって死亡した患者の病理解剖検査は、病気の進展、病理の面から感染予防、治療面から有益な情報を提供するものです。


臨床経過についての情報、属性などの情報は、中国の72,314例のまとめからうかがい知ることができます(1)。
しかし、肺炎とか呼吸機能障害と言われる臨床症状を裏付ける病理解剖所見についての報告は非常に稀です。
武漢ウイルス肺炎患者の解剖所見の報告を検索してみましたが、今のところ3文献を入手できたところです。

インターネットで調べてみると、武漢ウイルス疾患と病理解剖の情報はあるのですが、殆どが病理解剖を行うに際しての解剖室のハード面の情報です。
武漢ウイルスは、容易に空気感染するものですから、解剖室からのウイルス飛散を府直ぐことが重要です。
そのためには、解剖室の空気圧は外部に対して陰圧でなければなりません。
吸引された空気は外部にそのまま放出されてはいけませんので、ウイルスを殺す装置や高性能フィルターが必要です。
要するに感染力の強い微生物を扱うほどの施設が必要です。

日本では解剖を行っていないように思われます。
病理解剖の報告が見当たりません。
第一の理由としては上述の施設がないことでしょう。
また、武漢ウイルスによる死亡者は日本全体で約600例と少ないことも理由かもしれません。
また推測するには、現在の病理解剖数は40年前と比較し、非常に少なくなっており、病理学教室の解剖体制が崩壊しているのではないかとも危惧しています。

興味ある3文献を入手しましたので、今後皆様にご報告いたします。

注(1)
Characteristics of and Important Lessons from the Coronavirus Diseases 2019(COVID-19) Outbreak in China.
Summary of a Report of 72314 Cases from the Chinese Center for Disease Control and Prevention.
Zunyou Wu and Jennifer M. McGoogan. JAMA, April 2020, Vol. 323 (13), PP1230~1242.

西垣敏明

昭和23年兵庫県生まれ。県立八鹿高校、長崎大学薬学部卒業。薬剤師、医学博士(信州大学)。
製薬会社にて新薬の安全性研究に従事し、(財)食品薬品研究センター、国際協力事業団(JICA)派遣の専門家としてフィリピン保健省で国際協力に従事。
フィリピンに霊長類を用いた医薬品研究所設立に関与し、ODAの無償協力案件調査に従事。
インドネシアでノニに出会い、以後ノニおよびその他インドネシア産熱帯薬用植物の研究開発をインドネシア政府と共同で行っている。
東京ノニ研究所代表、信州大学医学部特別研究員。著書:ノニ科学読本1~4、漫画みなみのノニ子ドタバタ奮闘記、博士の愛したブアメラなど

 

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