武漢ウイルス患者の病理解剖(4)総括

新型コロナウイルス患者剖検所見から見えてきたこと

武漢ウイルス患者の病理解剖(2)及び(3)において、4論文の病理解剖検査所見を紹介しました。

今回これらの剖検所見のまとめを行い、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)およびその病気(COVID-19)の進展について考えてみたい。

患者属性
4文献中3文献は中国からの発表であり、恐らく全員中国人(計7例)と考える。
1文献はアメリカの発表であり、剖検対象者は全員アフリカ系アメリカ人(4例)であった。

臨床歴
中国人7例中6例は、59歳1例、他は73歳以上で肺腺癌、肝硬変、糖尿病、慢性白血病、腎移植後の重篤な持病歴があった。
唯一50歳男性だけが、健康人であった。

アフリカ系アメリカ人4例は、全員肥満と高血圧症、糖尿病、抗免疫剤投与中と持病歴を持った患者であった。

臨床所見
殆どの患者が発熱と咳を主訴としている。
中国人2名の肺腺癌患者は肺切除後感染が確認されたこともあり、臨床症状は不明。
リンパ球減少が特徴。
LDHの上昇。
血栓形成と線溶系パラメーターの上昇例。

放射線検査
X線あるいはCT像で、全例とも両肺にすりガラス様の不透明病巣が確認されている。
すりガラス様病変はびまん性斑状のもの、また梗塞を示唆する胸膜を底辺とした楔状像が認められる例もみられた。

肺の病理学所見
硝子膜、肺胞内血液たんぱく浸潤、肺胞出血、II型肺胞上皮細胞の合胞多核細胞形成、過形成、ウイルス封入体を示唆する所見。
肺胞間質肥厚、浮腫、血管変性、血栓形成、巨核球の出現などが特徴的であった。

上記変化は急性びまん性肺胞傷害を特徴とする所見であり、臨床診断での急性呼吸促拍症候群に符合するものである。

心臓・肝臓の病理学所見
検査された例において、コロナウイルスに特異的な変化は明らかでなかった。

病因

新型コロナウイルスによる肺病変の発症機序については、臨床・疫学・ウイルス感染学に加えて病理学的研究など学際的に研究されていくべきものです。
門外漢による発症機序について推論、まして断定することはできないけれども、病理学的検索の報告論文に眼を通す限り幾つかの推論に達した。

*臨床診断名の急性呼吸促拍症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome, ARDS)に一致する肺のびまん性肺胞傷害がCOVID-19の重篤化や死因となる。肺胞壁の血管透過性が増して血液成分が肺胞内に浸潤し浮腫となり、呼吸不全に陥るのであろう。

*肺の病理所見で特徴的所見として、II型肺胞上皮細胞の過形成あるいは合胞体形成で認められことです。
 その主要な役割である界面活性剤(サーファクタント)の合成促進であるのか機能異常を現すものか不明である。

*II型上皮細胞内にウイルス封入体を示唆する所見が認められているが、免疫組織学的あるいは電子顕微鏡的な追及がなされていないのが残念である。 
 II型上皮細胞には、コロナウイルスのスパイクの受容体ACE2酵素の存在が知られており、コロナウイルスはII型上皮細胞に取り込まれ増殖する。
 細胞の合胞化やウイルス封入体の存在などは、上皮細胞の活性化やウイルスの侵入を示すものでしょう。 
 しかしながら、II型上皮細胞は疲弊し機能低下に陥っている運命にあるから、その結果酸素分子の血管内への取り込みには障害が出ており、
 呼吸不全を来すものと推測する。
 

*注目すべきなのは、肺の小血管に血栓形成が認められる場合が多いことです。
 フィブリン溶解の線溶系や血液凝固時間の延長、LDHの高値など血液検査の所見と符合する。
 また、CT像で見られる肺梗塞様の変化も血栓形成を示唆するものと思われる。
 COVID-19感染患者の容態変化は、血栓形成・線溶系パラメーターの測定で推測できるものと思われる。

*血液中のリンパ球の減少は重篤度を示す指標である。
 リンパ球による免疫暴走の知見は、唯一基礎疾患がない50歳男性で得られている。
 肺間質への浸潤が明確で間質性肺炎の初期像と考える。

*肺に分布するグラム陰性桿菌プレボテラ菌の検索がなされていないのが残念である。

*4論文の病理検査対象患者は11名。
 このうち10名は持病あるいは基礎疾患があり、ウイルス感染による加重化(Superimposed)したものである。
 日本での重症感染者や死亡者は70歳代以上がほとんどであり、加齢に伴う体力低下あるいは基礎疾患の上にウイルス感染が起きたものと考えるのが妥当と思う。

*日本人死亡者の病理解剖による肺所見の報告はないのが残念である。
 死亡患者の病理学的研究は病気の診断や治療に有益な情報を提供するものです。
 陰圧解剖設備がない場合はご遺体からの生検材料採取で対応して頂きたいものです。

 

*肺胞上皮にはI型とII型があるが、これらの携帯と機能については以下を参照。
http://www.ft-patho.net/index.php?Lung

Ⅰ型肺胞上皮は, 比較的小型の核と核周部をもつ。核以外の部分では細胞質がきわめて薄くなり大きく広がっていてガス交換に関与する。細胞小器官は乏しい。
Ⅱ型肺胞上皮は, 丈の高い大型細胞で分泌細胞とも呼ばれる。光顕では細胞質は明るくみえる。細胞小器官は中等度に発達し, 核上部に特徴的な層板小体をもつ。小体はズダン染色, PAS染色陽性でリン脂質, 蛋白, 糖を含む。層板小体は開口分泌により肺胞内へ分泌され肺胞表面に広がり脂質の薄膜となって表面張力を低下させる界面活性剤(サーファクタントsurfactant)として働く。サーファクタントの働きで肺は表面張力による収縮をまぬがれ, O2が肺胞表面によくゆきわたるようになる。

肺胞のI型上皮細胞とII型上皮細胞

西垣敏明

昭和23年兵庫県生まれ。県立八鹿高校、長崎大学薬学部卒業。薬剤師、医学博士(信州大学)。
製薬会社にて新薬の安全性研究に従事し、(財)食品薬品研究センター、国際協力事業団(JICA)派遣の専門家としてフィリピン保健省で国際協力に従事。
フィリピンに霊長類を用いた医薬品研究所設立に関与し、ODAの無償協力案件調査に従事。
インドネシアでノニに出会い、以後ノニおよびその他インドネシア産熱帯薬用植物の研究開発をインドネシア政府と共同で行っている。
東京ノニ研究所代表、信州大学医学部特別研究員。著書:ノニ科学読本1~4、漫画みなみのノニ子ドタバタ奮闘記、博士の愛したブアメラなど

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