蘇った熱帯薬用植物ノニ: 便秘からガンまで (3)

ノニはインドネシア伝承医薬品ジャムゥ

ノニはインドネシア伝承医薬品ジャムゥ

インドネシア原産の熱帯薬用植物ノニは、インドネシアで6000年もの間連綿と医薬品として利用されています。インドネシアの語源は「インドの島々」であり、紀元前からインドの文化的影響を強く受けています。インドの生体医学アユール・ヴェーダの影響を強く受け、インドネシア原産や入手可能な薬用植物を用いてインドネシア独自の医薬体系を作り上げました。それが、伝承医薬品ジャムゥ(Jamu)です。中国の中医薬に相当するものです。

現在ジャムゥは伝承医薬品と定義され、ジャムゥの製造、販売には政府の許可が必要です。ノニは、ジャムゥの重要素材の一つとなっていますが、ノニジュースとして市場で販売されるようになったのは、僅か20数年前からです。それ以前は、次に述べるように各家庭で独自、あるいは医療従事者の指導のもとにジャムゥを調合し利用していました。

ジャムゥはヒンズー教の中心地であった中部ジャワで発祥したものと考えられ、8世紀建立の世界遺産であるボドブドゥール仏教寺院の主壁には、遠路の客を慰労すためにジャムゥを作るレリーフがあります。インドネシア語で医薬品はオバット(Obat)ですが、その語源は「客をもてなす」の意。まさにジャムゥは「おもてなし」の健康食品です(5、6)。

図3インドネシア、世界遺産ドブドゥール仏教寺院

インドネシア、世界遺産ボドブドゥール仏教寺院
ジャムゥで客をもてなすレリーフ
左下部のうちの中でジャムゥを作っている

ノニは一家に1本

ノニの国インドネシアの地方を旅すると、必ず庭やフェンス沿いにノニの木を見ることができます。ノニの木は中高木で枝を広く広げるため日陰を作り昼食の場でもあり家族団らんの場を提供します。ノニ果実は伝承的な方法でノニジュースを作り、健康維持、病気の予防や治療に使っています。1年中、黄色く成熟した果実が実るため、毎日あるいは病気の際は現代医療が充実していない時代の第一の選択治療薬の役割をもっていました。現代でもノニの効果のため、医薬品に頼らず伝承的に使われる場合が多いようです。

大きな葉はジャムゥ素材、料理の梱包材、食事に必須のソース(サンバル)の素材としても利用されます。タイでは、葉はスープの具材として利用されます。
また、害虫忌避作用があり家の周囲に植え、また街路樹にして害虫駆除に役立てています。コーヒー農園の周囲に植えてコーヒーの木を守り、他の農園との境界の目印としても利用しています。
野生のノニの木は川沿いや海辺に多く見ることができ、大都市ジャカルタでも水路の堤防に生きよい良く枝を伸ばしている光景を目にします。バリ島の海辺には樹齢30年以上という直径50㎝にもなる大木が植生し、住民と共生しています。

ノニの木は、地方では一家に少なくとも1本植えて健康、病気対策に使用していますが、現在ノニジュースを製造する国や地域でインドネシアを除き、このような事例はどこにもありません。ノニが人々に強く信じられていることの証です。残念なことは、現代の若者はノニの伝承医薬品の知識がなく、果実が臭いとの理由で伐採することが多くなってきています。天然物を利用する予防医学教育は発展途上国でも必要です。

図4インドネシアのノニの木

小川に自生するノニ、ジャワ島
樹齢30年以上の太いノニの木、バリ島

今も生き残るジャムゥゲドン


インドネシアの首都ジャカルタにおいても、何本もの液体を入れた容器をいれた籠をを背負った女性を見かけます。ジャムゥゲドンというインドネシア独特の伝承医薬品ジャムゥを売り歩く医療従事者です。

中部ジャワ島の古都ジョグジャカルタジャムゥを中心とする地域が発祥の地です。様々な熱帯薬用植物の栽培が盛んで、それらを使用したジャムゥ処方は秘伝として祖母から母、そして娘に受け継がれます。もちろん、ノニ果実ジュースもジャムゥ処方の重要な素材のひとつ。ジャムゥゲドンは、「ジャムゥおばさん」と親しまれ、ジャワ島のみならずインドネシア各地に出かけ、連綿と人々の健康に奉仕しています。仕事前に一杯、仕事を終えると一杯のジャムゥを飲むのが多くの人々の習慣になっています。

図5ジャムゥゲドンとジャムゥ

ジャムゥゲドンが処方したジャムゥを飲む著者、ジャワ島

ドウクンとバリアン

インドネシアには、伝承医薬品ジャムゥを通じて健康と病気の治療に貢献する医療従事者がいます。中部ジャワではドウクン(Dukun)と呼ばれる者でいずれも男性です。独自のジャムゥ処方を開発、製造するなど現在でも存在価値は高い。著者はジョグジャカタで一人のドウクンに出会い、機会あるたびに彼が経営するジャムゥ店に行き、疲れをいやすことにしています。

図6インドネシアの医療従事者ドウクン

ドウクンのSoebari氏と著者

一方、インドネシアは10世紀にもなるとイスラム教が隆盛となり、中部ジャワのヒンズー教徒は東へ移動せざるを得なくなった。ドウクンも共にジャワ島の東のバリ島に逃れた。バリ島はヒンズー教徒の島として、ジャワ島とは言語や文化を異にしている。バリ島の医療従事者はバリアンと呼ばれる。村には必ず一人のバリアンがおり、呪術、医者、薬剤師、マッサージ、出産など住民の医療に携わっている。一家の中で最も優秀な男性が世襲する。優秀な女性が承継することもあるようだ。病気の際には、先ずバリアンに診てもらうのがバリ島住民の習慣となっている。伝承医薬品ジャムゥや医療体系はロンタルというヤシの葉に記録され、現在も約200年毎に複製されている。

著者はノニ研究、調査のためバリ島を頻繁に通い、バリアンより伝承医薬品のノニ果実使用の処方を学んだ。風邪、めまい、疲労、アレルギー、消化管疾患など多彩な病気にノニ果実が使用され、玄関や敷地内にはノニの木が何本も植えられています。

図7インドネシア、バリ島の医療従事者バリアン

妊婦の健康状態を改善する老齢のバリアン、バリ島
珍しい女性のバリアン。
ノニ果実にシレ(キンマ)、塩、酢を加えたノニジュースを作り、著者をおもてなし。 バリ島

このように、伝統的な医療従事者が現代医学や医療体制ができるまでドウクンやバリアンのような医療従事者が、熱帯人薬用植物を利用して人々の健康維持や病気の治療にあたり、その知識と経験は脈々と現代に受け継がれている。
太平洋の島々にも薬用植物を用いて治療にあたる医療従事者がいるが、インドネシアを起源とする末裔であろう。

メンクド・ベサール

ノニはインドネシアを起源とする熱帯薬用植物である。栄養学的および治療効果を持つ植物として認識され、貿易商によって西に、インドネシアから旅立ったラピタ人によって広く太平洋の島々に伝搬されたことは容易に想像できる。ノニの植生に適する地域としては、熱帯気候が重要で現在の植生や利用性からみて、赤道を中心とした南北回帰線内に限られる。日本の沖縄にもノニは自生するが、果実は5㎝程度の小さなもので周年収穫することはできない。よって、有史以来ノニ果実を食物として利用したことはありません。

暖かい太洋に乗り出し太平洋の諸島を植民地化したヨーロッパの国々は、植物相や動物相の生態の研究や系統的分類、博物学の進展に大いに貢献しました。
英国艦隊は太平洋をくまなく探索し、インドネシアで遭遇したノニ果実が他地域のものより大きく、これをGreat Morinda、すなわち驚嘆すべき意味を含めて「大きなノニ果実」表現し、現在の英名となっている。インドネシアでは、同義語としてMengkudu besarと呼びます。

モリンダ属には、ヤエヤマアオキ以外にコヤエヤマアオキ、トガリウッド、ハナガサノキの種が知られています。実際に食用にされているのはヤエヤマアオキですが、多数の変異種があるといわれ、地域によっては葉や果実の大きさに違いがみられます。広い太平洋諸島では、気候や土壌条件によってノニの木、葉、果実等に差があることは容易に理解できます。それに起因して栄養成分、機能性成分に違いが出てくるでしょう。
中部ジャワでは、Mengkudu Besarという表現に加えて、この大きく有益な果実に由来してQueen of Noni(ノニの女王)とも呼んでいます。

手のひらの大きさを超えるメンクド・ベサール

染色材

ノニ果実や葉の有用性に加えて、根や幹材、樹皮はインドネシアでは古くから染色剤として、伝統的な衣類のバテックや伝統文化であるろうけつ染めの染色材に使用されていました。ドイツで合成染料が発明される19世紀までには、ノニの根は染色剤としてヨーロッパに輸出もされていました。因みにバティックの本場、中部ジャワの古都ジョクジャカルタの染色業者にノニの根の使用を尋ねたところ、誰もノニの根が染色剤として使用できるということを知りません。もし、ノニの根の抽出物があれば使ってみたいとのことでした。そのため、ノニの根から抽出して2種類の粉末を作った思い出があります。

アントラキノン系のモリンディン(Morindin)やモリンダジオール(Morindadiol)などの色素は、媒染剤によって黄金色から赤色に染め分けることができます。樹齢3年程度の若いノニの根が最も染色に適していると言われています。インドネシア産のノニの乾燥根を用いた場合、ミョウバンを媒染剤として染色すると鮮やかな黄金色に染まりますが他の天然素材では難しいようです(7)。


図8 ノニ根の染色絹への応用

媒染剤:ミョウバン
媒染剤:硫酸鉄
媒染剤:硫酸銅
媒染剤:アルカリ剤

 高橋澄子。ジャムゥ、インドネシアの伝統的治療薬。平河出版社、東京、1988
6 Susan-Jane Beers. Jamu, The ancient Indonesian Art of Herbal Healing, Periplus Editions, Hong Kong, 2001

7 Hong Sun Pyo. Dyeing Properties of Noni Root Extracts on Silk Fabrics, 2010

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